fantom_zona’s diary

合成生物学(と最近では神経変性疾患)

コネクトームをシーケンサーに掛けたい

今年読んだ一番好きな論文2017の12月21日の記事です。

初めまして。kira_kira_worldです。合成生物学と基礎医学が好きな学部生です。この企画は以前から見ていて、ずっと見る専だったんですが、今年は景品欲しさに登録してみました。

 

紹介論文

紹介する論文は、"Using high-throughput barcode sequencing to efficiently map connectomes"です。バーコード技術(後述)を使ってコネクトームを決定する方法を考えましたっていう論文です。

 

前置き

 Wikipediaの"コネクトーム"というページを引用しますと、

「コネクトーム(connectome)とは、生物の神経系内の各要素(ニューロンニューロン群、領野など)の間の詳細な接続状態を表した地図、つまり神経回路の地図のこと。」

とのことです。今回の論文の中では、コネクトームとは神経細胞の全接続のことを指しますが、コネクトームの全体像を描くのはかなり難しいようで、線虫(めっちゃ小さい生き物)とかでしかコネクトームは分かっていないようです。現状、コネクトームを網羅的に決定するには顕微鏡を用いるしかありませんが、脳全体を顕微鏡で少しずつ見ていくことはほぼ不可能なので、コネクトーム決定の困難さはこのことからもわかります。

 そこで、いい感じにハイスループットにポンポンポン!ってなんねぇかな〜〜ってことで、著者たちがいい感じの方法を思いついたみたいです。ワクワクしますね、一体どんな方法なんでしょう。

 

基本的なアイデア

 アイデアとしては、シナプス前膜と後膜それぞれを異なる配列の短いRNA(バーコード)で以って標識してやり、なんとかして一つの配列に繋げてシーケンサーに突っ込めば、各シナプス結合がタンデム配列として認識できるだろうというものです。

 具体的には、NeurexinとNeuroliginというシナプス前後に局在して手をつなぐタンパク質を利用します。RNA結合モチーフを細胞質側に融合し、細胞外にはリンカー結合部位を融合します。すると、バーコード配列はシナプスに局在し、ビオチンの付いたリンカーを加えてやればタンパク質は架橋されます。その後、細胞を溶解させ、ビオチンで免疫沈降すれば、RNAのペアが取得できます。名付けてSYNseqと言うらしいです。なんて知的でアクロバティックかつ繊細なアイデアなんでしょう!

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イデアの概略図

 

実験結果

 新しくてかなりアクロバットな手法を開発しようとしているため、細かいvalidationが多かったみたいです。論文に記述しきれていない実験が大量にある雰囲気が読んでてバシバシ伝わってきます。実験内容について簡単に説明すると、著者たちは、

 

RNARNA結合モチーフが結合して細胞膜に局在する(HEK細胞&ニューロンにおいて)

シナプスで両方のタンパクは近傍に存在している

✅ 架橋し、免疫沈降で落ちてくる

 

という確認をしたようです。(詳細は省略)

 続いて、RNA同士を結合させるという部分ですが......すでにここまでの実験でかなり大変だったみたいなのに、ここが最大の壁だったようです。著者たちは、色んな方法を試してみて(splinted ligation, ribozyme)、エマルジョン overlap&RT-PCRという方法に行き着きました。

 エマルジョンPCRとは、油中に非常に小さな水滴を作り、その水滴を小さな反応炉として利用することで、沢山の種類の核酸を別個に増幅させる方法です。通常、次世代シークエンサーのサンプル調整で使用されます(例えばこのページを参照)。

 

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 ということで、全体のフローがようやく完成しました。とりあえずHEK細胞でワークするか試した結果が下の図です。preまたはpostのタンパク質を発現させた細胞を混ぜたあとにシークエンスしてあります。縦軸・横軸がそれぞれHEK細胞にトランスフェクションしたバーコード配列(即ち個々の細胞)、各点がそれらの接続を意味します。

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 おお、なんかそれっぽそう!

 

 では、ニューロンでは?というと、HEK細胞での実験と似たような手法を用いて実験を行いましたが、感度が非常に悪くなってしまい、RNAをほとんど検出できなかったようです。図すらありませんでした。これはどうやらRNAの結合効率が悪かったせいのようです。著者らの実験はここで終了しています。*1

(他にも色々書かれているけど省略)

 

結論

 今回の結果ではコネクトームは読めない。

 

感想とか

 手法の正しさをどうやって証明するのか、preとpostのタンパク質は本当にニューロンで正しい局在をするのか (細胞膜全体に局在していそうな図がある)、1細胞内でcross-linkしてしまうのではないか、などと色々と疑問が多い論文でした。

 結果は全然ダメでしたが、発想においては今年読んだ論文で一番面白かったです。今回の記事ではかなり省略しましたが、色々な分子生物学的なギミックが本論文では使われており、そういうツールを使って生物学に切り込んでいくのは楽しそうだなと思いました(結果が伴えば)。僕にとっては技術的に難しい部分が多く、非常に勉強になりました。気になった方は読んでみてください!(そして間違いがあったら指摘してください。)

*1:結局、RNA結合率の良い手法を開発できなかったものと思われます。